横長の画面は、3枚のカンヴァスを組み合わせて作られている。すなわち、黒い長方形、ざらざらした質感の白い長方形、そして下を貫く、黒い線の入った鮮やかな赤色の細長い長方形である。誰の眼にもそれは、幾何学的に構成されたきわめて抽象的な絵画のように見えるだろう。しかしながら画家は、社会学的かつ心理学的な意味内容を盛った、全く具体的な図像としてこの作品を描いたという。「Ⅰ.これらは、監獄、小室(セル)、壁の絵画である。Ⅱ.ここでは、観念論的な正方形が監獄となっている。幾何学は、監禁として現れる。Ⅲ.小室は、アパート、病院のベッド、学校の机――つまり、産業構造のなかの隔離された終点――を連想させる手段である。Ⅳ.これらの絵画は、観念論的モダニズムの批判である。『カラー・フィールド』には刑務所が置かれる。ロスコの靄のかかった空間は、壁に囲い込まれる。Ⅴ.地下の導管は、ユニットを結合する。『生命の液体』が流れ入り、流れ出る。Ⅵ.『漆喰』のテクスチュアは、モーテルの天井の記憶である。Ⅶ.デイ・グロ塗料(蛍光塗料)は、『安っぽい神秘主義』を意味している。それは、発光のなごりである」(ピーター・ハリー『絵画についての覚書』1982年)。ピーター・ハリーは、1980年代の初めに、ロール=ア=テックスや蛍光塗料等の産業的な素材を用いて、幾何学的な抽象絵画を模造した絵画作品を制作するようになった。それは、フーコーらのポスト構造主義思想を参照しながら、近代主義の絵画的形式として抽象絵画―とりわけその極点としてのミニマリズム絵画――に対する根源的な批判を目指したもので、ネオ・ジオ、あるいはシミュレーショニズムを代表する作品として1980年代後半以降、世界的な注目を集めるに至っている。(Y.M.)rn
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- 地下に導管のある長方形のセル
- 作者名
- ピーター・ハリー
- 制作年
- 1986
- 分類
- 絵画
- 材質・技法
- アクリル、デイグロ・アクリル、ローラテックス、カンヴァス
- 寸法
- 149×457.5cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1992
- 作品/資料番号
- 1992-00-0048-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/3973/
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