1980年代前半にたんすや掃除機など日用品にペイントしたり、画廊空間にドローイングの切り抜きをピンナップするなどインスタレーション的な作品で登場した吉澤の当初からのねらいは、「眼に見えないものの形象化」であった。はじめは既存のもののかたちを借りていたが、平面に専念した80年代半ば以降、時にプロペラのような、時に生き物のような不思議なかたちが画面に浮遊しはじめた。作品の素材は、一般に絵画が連想させるカンヴァスと油絵具ではなく、アクリル板やポリプロピレンの一種などに色鮮やかな赤や紫の印刷用インクという工業製品的なものである。塗料が全く染み込まない表層を持った半透明の薄い、硬い支持体(画面)に、彼女は腕や体全体を使ってスピード感あるストロークを重ね、気に入らない線は直ちに拭き取る。出来上がったかたちは彼女の一瞬の躍動の軌跡の集積であり、90年代前半には画面から迫り出すような運動感を高めたが、近年はひそやかな揺らぎの表現へと向かっている。rn《と-62》 (1994)は「現代美術の展望――VOCA展’94」の出品作であり、《ち-26》 (1995)は当館の開館記念展「日本の現代美術1985-1995」のために制作された。特徴あるタイトルは、1988年以降「いろはにほへと」の順に1年ごとにたいていは付され、その後の数字はその年の中でのおおよその制作順を示す。吉澤はドローイング、版画など紙の作品も数多く手掛けており、当館はその鋭い線描の魅力が際立つ銅版画の連作を所蔵している。(Y.H.)rn
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- ち-26
- 作者名
- 吉澤 美香
- 制作年
- 1995
- 分類
- 絵画
- 材質・技法
- スクリーン・プリンティングインク/塩化ビニール板
- 寸法
- 273.9×182.3cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1996
- 作品/資料番号
- 1996-00-0010-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/4300/
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