画面を覆い尽くす水滴は、わずかな震動があれば今にもばらばらと落ちてきそうだ。近寄れば地塗りのない麻布に直接描かれた水滴の描写にすぎないとわかるのだが、観者はこの見事なイリュージョンに感心してしまう。いってみれば、これは西洋で古代から人気を博してきたトロンプ・ルイユ(だまし絵)の一典型に過ぎない。しかし、写実性や迫真性を旨とするトロンプ・ルイユの伝統に根ざしながら、この画家は水滴ばかりを執拗に描き続けることによって、物質としての画面とそれが作り出すイリュージョンとの微妙な関係を問いかけてきた。作者自身によれば、故郷の山河の湧き水や清流の思い出が水滴というモティーフの制作動機になっており、水滴を描くことは山水画を描く気持ちに近いという。彼の近年の一連の作品は《回帰》というタイトルをもつが、1粒の水滴が集まって渓流となりやがて大河となるという悠久の大自然のヴィジョン、うがった見方をすれば、分断され離散した民族をばらばらの水滴にたとえ、未来の合流を祈念する民族的悲願さえも、ここには宿っているのかもしれない。(K.M.)rn
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- 水滴 J.T.82024-79
- 作者名
- 金 昌烈
- 制作年
- 1979
- 分類
- 絵画
- 材質・技法
- 油彩/カンヴァス
- 寸法
- 181.5×227cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1983
- 作品/資料番号
- 1975-00-0576-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/606/
東京都現代美術館のその他の収蔵品 (7905)
[斎藤義重作品写真集:ファイル 5] 15/56
斎藤 義重
東京都現代美術館
《柔かに、還元 Ⅲ》のための作業譜断片(D-1)
中西 夏之
東京都現代美術館
物見高い人々
オノレ・ドーミエ
東京都現代美術館
[小清水漸作品写真集 3](9/30)
小清水 漸
東京都現代美術館
作品
村上 三郎
東京都現代美術館
[中野淳関連資料:下町スケッチ](29/55)
中野 淳
東京都現代美術館
[斎藤義重作品写真集:ファイル 1] 13/127
斎藤 義重
東京都現代美術館
<陸上の出来事>シリーズ タイとアメリカの海兵隊員と船員たち、タイランド湾(Ⅱ)
アン・ミー・レー
東京都現代美術館
[斎藤義重作品写真集:ファイル 5] 2/56
斎藤 義重
東京都現代美術館
心の中の城
深沢 幸雄
東京都現代美術館
天王寺風景(A)
小出 卓二
東京都現代美術館
神話 A
阿部 展也
東京都現代美術館
[鉄条網を切る兵士]
宮本 三郎
東京都現代美術館
蝶[『蝶紋』より]
秀島 由己男
東京都現代美術館
[プラン 17 12.12]
三木 富雄
東京都現代美術館
顔[『蟻のいる顔』より]
駒井 哲郎
東京都現代美術館