重苦しく不吉な鉛色の空の下、丸々とした巨大な爆撃機の影が遠景にうずくまっている。パノラミックな横長の画面のほとんどを占める人物群像。その中央最前面では、ロボットのように鈍重で無表情な警官隊が、必死の形相をした農民たちを排除しようとしている。踏みにじられた地図。カリカチュア的な人物表現と歪んだ空間表現には、誇張が顕著である。だがそれだけに、非人間的な権力と名もなき民衆との対決をヒロイックに描きだそうとした作者の意図は、手に取るようにはっきりとわかる。東京都下の砂川町で起こっていた立川基地拡張反対運動は、1955年9月、ついに組合や学生を加えた反対派の町民と警官隊との衝突事件にまで発展した。この「砂川事件」に取材した本作は、社会批判を前面に押し出した1950年代の〈ルポルタージュ絵画〉の代表作である。それは、単なる写実ではなく、シュルレアリスムに基づく前衛的な手法こそが絵画に深い社会性を与えることができるとした、一つの芸術運動であった。だが、60年安保の挫折とともに画家たちは、土俗的なポップ=シュルレアリスムなど、より間接的な表現によって、繁栄を謳歌する社会に対する問い掛けを行うようになっていった。(Y.M.)
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- 砂川五番
- 作者名
- 中村 宏
- 制作年
- 1955
- 分類
- 絵画
- 材質・技法
- 油彩/合板
- 寸法
- 92.5×183cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1981
- 作品/資料番号
- 1975-00-0354-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/378/
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