波の静かな港に、3隻の小舟が繋がれている。湾の向こう側には新緑の中に佇む古い家並みが見える。版画家、川瀬巴水が描いた伊豆大島・波浮港の光景である。
波浮港は過去の地震で崩れた火口湖を開削して、江戸後期に開かれた港である。外周を崖で囲まれた湾の形状から波が穏やかで、古くから風待ちの港として栄えていた。そんな港が1928年(昭和3年)、野口雨情作詞、中山晋平作曲のレコード「波浮の港」の発売により、一躍全国からの注目を集める。島暮らしのわびしさと素朴さを歌ったこの曲は大ヒットを記録し、翌年東京と大島を結ぶ定期船が毎日運航となると、歌の舞台を求めて多くの観光客が島を訪れるようになった。1931年に8万人ほどだった定期船の乗客数は、1934年には21万人にまで増加した。
ブームの中で観光地化は進み、三原山の砂漠に乗用のラクダやロバが導入されたり、「滑走台」と呼ばれる大型の滑り台が設けられたりと、観光地らしいアトラクションも増えていった。
巴水が大島を訪れたのは、日記によると1936年6月28日のこと。どのような取材をしたのか定かではないが、後に描かれたのは何気ない静かな波浮港の一場面だった。島の暮らしが変わりゆく中で、変わらない美しさをたたえた港を、彼はどのような思いで描いたのだろうか。
- 所蔵館
- 江戸東京博物館
- 資料名
- 大島 波浮之港
- 資料番号
- 91222107
- 種別
- 近代木版
- 作者(文書は差出人)
- 川瀬巴水/画
- 発行所(文書は宛先)
- 渡邊庄三郎/版
- 年代
- 昭和前期 昭和12年正月 1937 20世紀
- 員数
- 1枚
- 法量
- 38.6cm x 26.1cm
- 江戸博デジタルアーカイブズ
- https://www.edohakuarchives.jp/detail-7725.html
作者について
川瀬巴水 / KAWASE Hasui
from Art Platform Japan: https://artplatform.go.jp/resources/collections/artists/A2447
- 生年月日
- 1883
- 生地
- 東京府芝区(現・港区)
- 没年月日
- 1957-11-07
- 活動領域
- 版画
- 性別
- 男性
- 更新日
- 2023-02-13
Identifiers
- APJ ID
- A2447
- VIAF ID
- 308271760
- AKL ID
- 00002776
- NDL ID
- 00107376
- Wikidata ID
- Q344166
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