カナダで育ち、アメリカに移住した後も西部での生活を好んだ作者は、当初風景画を描いていた。その作品が自然のエレメントを想起させる有機的な抽象からさらに幾何学的な抽象に移行したのは1960年前後であり、1964年までには、ペイントしたカンヴァスに鉛筆で格子や水平線を描くようになった。一見したところ幾何学的な画面はしばしば同時代のミニマリズムに関連づけられる。しかし絵画を超越的な完全性と精神性の伝達手段と考えていたマーティンは、むしろニューマンやロスコら抽象表現主義の画家の影響下にあったといえよう。通常下塗りに使われるジェッソが塗られた画面は鉛筆の線が表面の粗い粒子を際立たせ、その物質性を印象づける。しかし離れて見ると規則的に引かれた線は、カンヴァスの織り目とジェッソの層によって揺れを生じ、正方形の画面内に空間の振動を喚起する。絵画は風景画のフォーマットでもある水平の構造を抽出するのみならず、こうした効果によって自然に対する人間の感情の容器となるのである。(C.H.)
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- 無題 #3
- 作者名
- アグネス・マーティン
- 制作年
- 1984
- 分類
- 絵画
- 材質・技法
- アクリル、ジェッソ、鉛筆/カンヴァス
- 寸法
- 182.9×182.9cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1992
- 作品/資料番号
- 1992-00-0046-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/3971/
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