
ターンテーブルの上に氷でできたレコードを置き、針を落とす。レコードはゆっくり回転し、途切れ途切れに曲が流れ出す。そのうち、氷/レコードがとけ始め、溝が消えてゆくにしたがって旋律がリフレインを始める。ノイズが新しい音として屹立してくる一方で、私たちの内側では、もとの旋律が幻聴のように響いている…。「氷のレコード」の通称を持つ当作品≪VINYL≫は、古いレコード盤を型取りして作られた氷のレコードを実際にターンテーブルにのせて演奏する作品である。音という非物質を一定の形(=溝)として保存するレコード盤は、1980年生まれの八木にとっては、目に見える形と目に見えない音との一体化という点において、非常に新鮮な媒体であったと言う。形が同じであればいつも同じ状態で再生するはずのレコード。作家はそれを時間とともに溶解してゆく氷で形成することにより、文字通り、形を持たない音の様態をささやかながら鮮烈に示す作品を生み出した。振動でしかない音を保存することをそのまま凍らせることに転換した≪VINYL≫は、当の氷の溶解によって、形もなく消えゆく音や不可逆の時間というものの在り方について、見る者/聴く者にさまざまな問いを投げかけるのである。rn美術とともに空間デザインを学び、チャンスオペレーションなどからも影響を受けた八木は、サウンドオブジェ、テキスト、造形、映像、インスタレーションなど、多様な媒体を手掛かりに多岐にわたる制作を行っている。その仕事はいずれも、レディメイドの機能・部分を巧みに利用・変形させることで、私たちの認識の裏側や隙間を垣間見せてくれる性格を持つ。音や時間についての洞察を含みながら、無常観にも通じるような儚さと微かな可笑しみが感じられる≪VINYL≫は、「日常の中に未知はまだある」と言うこの作家の特徴と魅力を端的に伝える作品と言えよう。
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- Vinyl F.F. Chopin / Chanson de L’adieu
- 作者名
- 八木 良太
- 制作年
- 2005
- 分類
- 彫刻・インスタレーションほか
- 材質・技法
- シリコン、精製水、冷蔵庫、レコードプレーヤー
- 寸法
- Dia.18cm
- エディション等
- Ed.10/12
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 2011
- 作品/資料番号
- 2011-00-0017-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/6102/
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