美術とともに空間デザインを学び、チャンスオペレーションなどからも影響を受けた八木良太は、サウンドオブジェ、テキスト、映像、インスタレーションなど、多彩な制作を行っている作家である。その仕事はいずれも、レディメイドの機能・部分を巧みに利用・変形させることで、私たちの認識の裏側や隙間を垣間見せてくれる性格を持っている。
廊下の中央に置かれたスピーカーの左右を行きかう人々の姿を3つ異なる速さで映し出すこの作品は、私たちの通常の可聴領域の外にある音を、映像を操作することによって「聴こえる」ものとして示す作品。八木は、「高速再生でスピーカーから曲を出力し、その様子を風景を含めて撮影/録音してから、撮影した映像と音をスローで再生すると、映像だけスローになり、音は元の速度で流れるはず」という「予測」のもと、この作品を作ったと言う。「a tempo(ふつうの速さで)」と題されたシーンでは、人々は、音を気にとめずに通り過ぎていくが、「Lento(遅く)」では、同じ画像がスローで再生されることで、この聴き取れなかったスピーカーから“曲”が立ち上ってくる。この曲を聴き取る世界から見れば、私たちはなんとゆっくりと生を送っていることだろう。「Presto(速く)」で起きているのはその逆だ。日常ではほとんど感じ取れない低周波音を“曲”として認識する世界から眺めれば、私たちの毎日は、蟻さながらの忙しいものに見えてこよう。八木の仕事は、この世界を俯瞰的に眺める視点―「高次からの視点」を束の間現出させることで、私たちの世界、その認識の枠組みを超える可能性を示唆するのである。
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- Lento-Presto (Corridor)
- 作者名
- 八木 良太
- 制作年
- 2008
- 分類
- 彫刻・インスタレーションほか
- 材質・技法
- 映像インスタレーション:ビデオ、スーパーツィーター、サブウーファー
- 寸法
- インスタレーションサイズ可変 6分5秒
- エディション等
- Ed.2/3
- 時間
- 6分5秒
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 2011
- 作品/資料番号
- 2011-00-0021-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/6098/
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