石川は写真家であると同時に、アラスカのユーコン川をカヌーで下り、北極から南極まで人力での縦断を成功させ、7大陸最高峰の登頂を果たすなど、さまざまな冒険を成し遂げてきた冒険家でもある。そして冒険の先々で石川が見たものをカメラに収める。《POLAR》はアラスカ、グリーンランド、スカンジナビアなど北極圏の国々を数年にわたって撮影したシリーズ。美しく圧倒的な氷山に囲まれた厳しい自然環境と、古くからの知恵に満ちた人々の暮らし、地球温暖化の影響による不安と隣り合わせのなか日々続いていくささやかな日常などが、石川の視線で切り取られる。そこから国を超えてつながっている目に見えないネットワークが浮かび上がる。《THE VOID》は、カヌーの原材料を探して、ニュージーランドの先住民マオリ族の聖地である原生林を訪ねたもの。原生林の森深くには神 聖な気配と、時を超え原始と交感できるような空気が満ちている。《NEW DIMENSION》は世界各地に点在する先史時代の洞窟壁画を訪ねたシリーズ。パタゴニアの洞窟に残る「ネガティヴ・ハンド」(壁に手を当て、その上から口に含んだ顔料を吹き付けていく手法)をはじめ、原初の人の営みの痕跡を追ったもの。
世界を知りたいと欲し辺境の地を旅し、その先々で直面する過酷な命がけの状況下で、五感を研ぎ澄ませ無心になった瞬間に訪れる「いま生きていること」の恐怖と緊張と大きな喜びの言いしれない感覚。そうした「心を揺さぶる何か」を求めて石川はまた旅に出る。石川の挑む冒険は、移動を伴う字義どおりの旅であると同時に、彼自身の精神の冒険でもある。彼の写真を入口として、鑑賞者は心の旅に導かれると同時に、目に見えない「いま生きていること」のとてつもないエネルギーを感じることだろう。(A.T.)
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- THE VOID #17
- 作者名
- 石川 直樹
- 制作年
- 2005
- 分類
- 写真
- 材質・技法
- 発色現像方式印画、フォトアクリル
- 寸法
- 90×112cm
- エディション等
- Ed. 1/12+AP
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 2007
- 作品/資料番号
- 2007-00-0028-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/5308/
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