
松本竣介は戦中戦後の苛酷な時代状況のもとで生き、活動した画家として知られる。病気で聴覚を失ったこともあり画家を志すようになった彼は、少年時代を過ごした岩手から17歳で上京したのち、36歳の若さで急逝するまで、静謐な抒情性をもつ都市風景を中心に独自の絵画を探究した。また竣介は当時の国家による文化統制に異義をとなえ、自画像や人物構想画にたくして芸術の自由な創造性と人間の自立性を訴えたことから、のちの時代に「抵抗の画家」と呼ばれた。当館収蔵の素描約60点には、《ニコライ堂》、《鉄橋近く》、《Y市の橋》などの、1941年頃から集中して描かれた東京・横浜近辺の風景が多数含まれており、竣介の織密な制作プロセスを知る手がかりともなっている。1点の完成作品を得るために、彼は現場での多数のスケッチを基に、アトリエでさらに素描をまとめ直し、油彩画や素描作品のためのカルトン(原寸大下絵)を制作した。ハトロン紙に描かれた下絵は、輪郭線をカンヴァスや画用紙に正確に転写し、ねらい通りの画面構成をつくり出すためのものである。こうした準備段階で竣介は、ある風景を別の場所や人物モティーフと組み合わせ、大きさや形を変えるなど現実を自由に再構成し、次第に線を強く明確なものに仕上げていった。戦局悪化のなかで竣介は東京にとどまりひたすら目前の風景と対峙した。描かれた都市風景は、細部にいたるまで写実的でありながら、時に孤独や不安、幻想味を帯びた心象風景となった。
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- ニコライ堂 A
- 作者名
- 松本 竣介
- 制作年
- 1941
- 分類
- 水彩・素描
- 材質・技法
- 鉛筆/ハトロン紙
- 寸法
- 38×45.5cm
- 受入年度
- 1975
- 作品/資料番号
- 1975-00-2193-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/962/
東京都現代美術館のその他の収蔵品 (8084)

Random Walk Kennedy
CTG(コンピュータ・テクニック・グループ)
東京都現代美術館

モノローグ
吉仲 太造
東京都現代美術館

無題
井田 照一
東京都現代美術館

震災スケッチ(九段下今川小路)
鹿子木 孟郎
東京都現代美術館

『日本不思議物語集成五 太平記』(現代思潮社、1973)挿画 [pp.254-255で使用]
中村 宏
東京都現代美術館

AOB (b)
一原 有徳
東京都現代美術館

ミカレル(娘の肖像)
駒井 哲郎
東京都現代美術館

風景 5(Printing 1)
松本 旻
東京都現代美術館

地下道の眠り
佐藤 照雄
東京都現代美術館

少女
牧野 虎雄
東京都現代美術館

(左)山の向こうの中腹のちっぽけな村はすでに見えなくなり、ふたたび春が巡ってきた。葡萄の木はあたかも塀の笠石の下を匍う病める大蛇のように見える。生あたたかい空気のなかを褐色の光が動きまわっていた。似たりよったりの毎日が作りだす空白は伐り残した若木まで切り倒すだろう。日々の暮らしのなかで樹木の茂みは岩のように突き出ている。(右)自分の暮らした村がこんなに小さく思われたことはない。太陽が姿をみせた。背の高いポプラの林は風に吹き動かされる砂浜のような格好をしている。切れ目のないその連続を見ているだけで眼がくらんでくる。変り映えしない日々の連続に酔うことができたなら象や蛇をしとめた気にもなれる。蝶が舞うようにそんな風に彼はものを識ったのである。
岡﨑 乾二郎
東京都現代美術館
![作品画像:(5)[『卵』より]](https://museumcollection.tokyo/wp-content/uploads/2022/08/16927.jpg)
(5)[『卵』より]
日和崎 尊夫
東京都現代美術館
![作品画像:ふか川 [ワタリドリ計画「シリーズ 深川の旅」]](https://museumcollection.tokyo/wp-content/uploads/2023/11/21929.jpg)
ふか川 [ワタリドリ計画「シリーズ 深川の旅」]
麻生 知子
東京都現代美術館

リトル・レッド・ブック F156
アンディ・ウォーホル
東京都現代美術館

[《言語楽器》関係資料一括]
田中 未知
東京都現代美術館
](https://museumcollection.tokyo/wp-content/uploads/2023/11/21891.jpg)
[中野淳関連資料:下町スケッチ](34/55)
中野 淳
東京都現代美術館