1953年9月。画家池田龍雄は東京から遠く離れ、石川県内灘村に来ていた。この漁村は、そののどかな風景とは裏腹に、当時、米軍砲弾試射場の建設問題で騒動の渦中にあった。「一般労働大衆の意識と、それとは甚だしくズレのある芸術家の意識とをいかに結びつけ、弁証法的発展にまでもってゆくかということ」に日々頭を悩ませていた池田は、積極的に社会との接触を図るため、仕事場を飛び出し、反対運動を繰り広げる内灘村の漁民の中に自ら入っていったのである。その場でスケッチしたものを元に後にペン画として完成したこの《網元》は、1950年代の一連の「ルポルタージュ絵画」を語る上で欠くことのできない作品である。深い皺が刻みこまれた大きな顔、肥大化した左手、掌の上に置かれたちっぽけな漁船。画家はスケッチを参照しながらも自在に形や大きさを操り、自らの印象を加えていく。漁師の首に何重にも巻かれた太い縄、背後に漂う不思議な魚たち。それは単なるリアリズムを遥かに超え、画家の問題意識を照らし出し、痛烈な風刺表現にかわる。画家の鋭いペン先はしかし微妙なニュアンスに溢れ、《網元》の物語性を一層豊かに増幅していくのである。
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- 網元(内灘連作の内)
- 作者名
- 池田 龍雄
- 制作年
- 1953
- 分類
- 水彩・素描
- 材質・技法
- インク/紙
- 寸法
- 24.7×32.2cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1981
- 作品/資料番号
- 1975-00-2013-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/776/
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