コンクリートの桁がむき出しになった建物の中で頭を垂れ、膨れ上がった大きな手を地面に投げ出し、うずくまる男。男の両肩には巨大な掌がのしかかり、今にも押しつぶされそうだが、ブロンズ色に底光りするその肢体が、重圧に抗しようとする不屈の生命力を感じさせる。上野の地下道でみた浮浪者の姿にヒントを得たといわれる《重い手》は、敗戦直後の日本人の抑圧された心理状況を表した傑作として称えられる。鶴岡は抑圧されるものの絶望感だけを表すことをせず、直線で構成されたキュビスム風の構築物に戦後の権力機構を象徴させ、その中に表現主義的に描かれ生命力をあたえられた肉塊を立ちはだからせることで、まわりの重圧に立ち向かう人間の実存そのものを示した。それは、貧苦にあえぎながらも画業を捨てず、戦時下の美術規制に反発し新人画会を結成した彼の歴史そのものを表しているといえよう。後に自由美術協会で活躍した鶴岡政男は具象から、人間を風刺的に記号・暗号化した抽象へと画風を変貌させていったが、人間とそれを取り巻く現実の矛盾への追求は決してやむことがなかった。
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- 重い手
- 作者名
- 鶴岡 政男
- 制作年
- 1949
- 分類
- 絵画
- 材質・技法
- 油彩/カンヴァス
- 寸法
- 130×97cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1980
- 作品/資料番号
- 1975-00-0317-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/332/
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