
てんとう虫、さくらんぼ、ざくろ、蝶々、葡萄――浜口陽三の版画によく登場するのは、私たちの身近にあるごく平凡なものたちである。作者はそれを銅版画という小画面の世界に閉じ込め、無駄な線を排した簡素な形態に変え、色鮮やかに浮かび上がらせる。微妙な濃淡に彩られた黄、赤、緑色の静物たちは、深く豊かな黒を背景にして非日常的な存在感を放ち始めていく。小画面ながらも凝縮した小世界を垣間見させてくれる浜口の版画は、自ら開拓したカラー・メゾチントという技法によって成立している。17世紀ドイツで発明された凹版銅版画の技法のひとつであるメゾチントは、銅板にベルソーという器具を使って直接刻みをいれ、その穴をつぶしたり磨いたりすることにより黒の微妙な諧調を作り出すものであるが、浜口はそれを独学で習得し、さらに1955年頃からは多色刷りという新たな技法に挑戦した。それは黄、赤、青、黒の4色4板の版を、色と諧調をイメージしながら彫り上げ、明色から暗色へと乾かないうちに注意深く刷り重ねていくというプロセスを経て出来上がるもので、職人として完璧な技と繊細な感性が要求される仕事である。そこから生まれるさくらんぼの赤、レモンの黄、葡萄の緑は、複雑で繊細な色の集積によって出来上がっていて、暗闇にともる灯火のように目の中で微妙な光の揺らぎとなっていく。メゾチントという漆黒の世界に色と光をともした浜口は、サンパウロ・ビエンナーレなど大規模国際展で数々の受賞を重ねるなど、銅版画の巨匠として揺るぎない評価を得ている。
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- 一つのさくらんぼ
- 作者名
- 浜口 陽三
- 制作年
- 1962
- 材質・技法
- メゾチント
- 寸法
- 35(高さ、縦)×30(幅、横) cm
- エディション等
- Ed. essai(画面外左下)
- 受入年度
- 1991
- 作品/資料番号
- 1991-00-0039-000
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