澱み、渦巻く大気のように、画面は流動し止まるところを知らない。絵の前に立つと、細部よりも統一された全体が大きな矩形として現れ、観る者を包み込む。にわかには上下すら判別しがたいが、そのことによって生じる不安定さが平衡感覚を揺るがし、観る者を引きずり込むような力を画面に与えている。このような画面の質は作家固有の制作方法と無関係ではない。作者はカンヴァスを床に平らに置いて、その四方から薄く溶いた絵具を撒き、拭き取り、再び絵具やメディアムを擦り込んでいく。絵具は透明感が生かされ、その物質性は強調されない。ピンクの使用も相俟って画面はあくまでも軽やかである。とくにこの作品では筆のタッチを生かして白が置かれ、それが下地の白と入り交じり複雑な効果をみせている。松本陽子は、マティスやフランケンサーラーといった色面の広がりを重視する作品を咀嚼し、一貫して独自の抽象絵画を描き続けてきた。しかしその作風は中国南宋時代の水墨画家牧谿のような、充溢する湿潤な大気を描いた東洋絵画の系譜にも連なっている。
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- 黒い岩
- 作者名
- 松本 陽子
- 制作年
- 1990
- 分類
- 絵画
- 材質・技法
- アクリル/カンヴァス
- 寸法
- 200×250cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1992
- 作品/資料番号
- 1992-00-0061-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/3985/
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