ハミッシュ・フルトンが提示するのは、彼自身の旅、歩行の記録である。場所や日付、時刻などの客観的な情報、あるいは、歩行中に見たものや心的状況を反映した簡潔なテクストによる主観的な情報、本作のように旅の途中に心が動くままに抽出された風景の写真などが、本や展示、あるいはインスタレーションの形で示される。それは、フルトンが60年代末、スコットランドやウェールズの自然を歩くことから始め、やがて場所を限定せずに世界各地で続けていくこととなった徒歩の旅を、証明するものでも再現するものでもない。彼の歩行を通じた自然との直接的な交感は、あくまでも彼自身の個人的な営みであり、それを共有することなど叶わないからだ。しかし、作品は歩行なしには成立せず、提示され得ないその道行のディーテイルや、フレームには収まりきれない風景の拡がりに、作品の鑑賞者が思いをはせることが、何らかのコミュニケーションの形となりうるだろう。フルトンは、自身をプロの写真家とも、彫刻家とも、巡礼者とも考えない。声高な制度批判やニヒリズムを横目に、ただ、歩くことそのものがアートとなりうるとする彼の主張それ自体が、ひとつのコンセプチュアル・アート(概念芸術)なのである。(K.O.)
- 所蔵館
- 東京都現代美術館
- 作品/資料名
- YUROK
- 作者名
- ハミッシュ・フルトン
- 制作年
- 1980
- 分類
- 写真
- 材質・技法
- 写真、テキスト
- 寸法
- 127.5×83.7cm
- 受入区分
- 購入
- 受入年度
- 1982
- 作品/資料番号
- 1975-00-3003-000
- 東京都現代美術館コレクション検索
- https://mot-collection-search.jp/shiryo/1193/
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